NEW!!!後編第五話
ヴァシシト!... by STRONG
デラドゥーンでは、マナリーまでの中継点として一泊した。デラドゥーンのその宿では久しぶりにテレビを観ることができた。何気なくチャンネルを回していると何と゛風雲たけし城゛がやっていた。インドでは゛TAKESHI'S CASSLE゛と呼ばれている。懐かしく観ていると、一昔前の日本人はなんて元気なんだろうと思った。ものすごい直球で単純でとにかくバカ。インドで観る日本のお笑いは格別だった。なんだか少しパワーをもらった気がした。
次の日、バスに揺られて約16時間。もうこのくらいの移動は何の苦にもならなくなっていた。そして目的の地、マナリーに着いた。マナリーにはヴァシシトという温泉がある村があって、そこに滞在することにした。去年、stinkerがこの村に来て泊った宿に泊ることにした。その宿に着くとそこのオーナーはstinkerを憶えててくれて、俺たちを温かく迎えてくれた。マナリーは北インドにあって、日中はそれなりに暖かいが、朝と夜は防寒着が必要なくらい寒い。カトマンドゥーで買ったカウチンがここで役に立った。部屋は値段のわりに驚くほどきれいだったが、部屋に付いている湯沸かし器みたいなホットシャワーが壊れていて使えなかった。とにかくシャワーを浴びたかったので、俺たちは早速温泉に入りに向かった。歩いて5分もすると温泉に着いた。そこは神社みたいになっていて、(きっとヒンドゥ
ー教の神様が祀ってあるんだと思う)神聖な場所のような気がした。期待に胸を抱かせて入ってみると、5m四方ぐらいの小さな温泉だった。が、汚い(驚き!)しかし汚い!ホントに汚い!垢がおもいっきり浮いていて、いや浮いているなんてもんじゃなくて垢だらけだった。むしろ垢湯?しかし、こちらも海パン一枚の状態・・・。入らないわけにはいかない。勇気を出して入った。お湯の温度はちょうど良かったけど、お湯を見てしまうといい気分で浸かってられなかった。しかたなく温泉を出て汚いお湯で体を洗って出た。温泉を出て宿に帰ろうとすると、信じられない人に出会った。タイの国境で出会ったあのおじさんに再会した。『こんなとこでまた会うとは、びっくりしました』と話しかけると、『ああ、そうですね』と拍子抜けするぐらい普通だった・・・。服装も出会ったときと同じ、タンクトップに短パンだった。このおっさんの皮膚はどうなっているんだぁ?むかし、富士登山の下山中、Tシャツで奇声を発しながら走り回って下山してる白人の外人を思い出した。『そういえば、温泉入りましたか?』と聞くと、『いやぁ〜、あんなの入れないよ。ばっちいばっちい』と笑顔で答えた。そこは気にすんのかよ!と心の中でツッコミを入れといた。そして束の間の再会を楽しみ、俺たちは別れた。
ヴァシシトは気候的には寒かったが、とても静かで人も良く、気持ちよく過ごすことができた。毎日、昼前ぐらいに起きて、朝一の嗜みをして、近くの山に行って滝を見に行ったり、近所の雑貨屋でアクセサリーを見たりして過ごした。そしてフリスビーは毎日欠かさずやっていた。ネパールのポカラにいた頃から、俺たちは暇さえあれば毎日のようにやっていた。そんなある日、俺たちが宿の屋上でいつも通りフリスビーをしていると、オーナーがやってきて、何も言わずただ笑顔でしばらく見ていた。きっと、やりたいんだろうなと思って投げてみた。ぎこちないながらもうまくキャッチして、すかさずstinkerに投げた。初めてにしてはうまかった。その日から、度々屋上に来ては、俺たちといっしにフリスビーをして遊んだ。それにしても、ここのオーナーはいつもプラプラしていて、仕事らしきことをしているところを見たことがない。バルコニーで宿の客と話をしているか、近所の仲間と賭けトランプをしているところしか見たことがない。さすがインド。まぁ、俺たちも充分人のことは言えないから、どうでもいいっていえばいいんだけど・・・。
インドにもだいぶ慣れてきて、ネパールから続くマサラの味にいい加減食傷気味になってきたので、stinkerのリクエストもあり、PASTAを作ることにした。近所のスーパーに行って、食材を探していると期待に反して意外なほどあった。そこでツナ缶とにんにくとキャベツを買ってきた。宿の厨房に入ると驚くほど汚くて、ここで俺たちはあのチャイを飲んでいたのかと思うと少し落ち込んだ。そんなことはさておき、気を取り直して料理をし始めると、オーナーとその使用人(名前は忘れたけど、こいつがホントに生意気!いい奴なんだけど・・・)が興味深そうにじっと見ていた。観察していたっていう表現のほうが合ってるかも。でも考えても見れば、俺たち日本人がいつもどを全て掃除して、お湯を沸かしてPASTAを入れて、フライパンににんにくのみじん切りと赤唐辛子を加えて弱火で香りが立つまで炒めて、そこにツナを入れてじっくり炒めたとこに、軽く茹でたキャベツを入れて、茹で汁で止めて、PASTAが茹で上がるのを待った。そして、茹で上がったPASTAを入れて、茹で汁とオイルで乳化させて出来上がり。そんな一連の動作をオーナーとその使用人はただじっと見ていた。出来上がったのでstinkerのとこへ持っていって、早速食べた。まぁ、特に感動もするようなPASTAじゃなかったけど、stinkerはメチャメチャ喜んでくれた。『うまいうまい』っていって食ってくれた。オーナーとその使用人が俺にも食わせてくれといったので、食べさせてあげた。どんなリアクションするのかと期待していると、きっと世界共通なんだろうか?親指を立てた。一安心だった。そして次の日、屋上でまたフリスビーをして遊んでいると、オーナーがやって来て、珍しく真面目な顔をして俺のほうにやってきた。すると突然、『昨日PASTAはおいしかったよ。今度、このゲストハウスを改装するんだが、ここで働かないか?』と言ってきた。戸惑ってる俺にさらに『もちろんお金はちゃんと出すし、君の好きなように改装していいし、メニューも君が決めてくれていい。』と続けた。で、ビザは?と聞くと『そんなもん切れそうになったら国境まで行って、一回出てまた入ってくればいい。』この国のたくましさに改めて驚かされた。リーガルもイリーガルもそんなもんどうでもいいと。そんなものにとらわれて、生きているのはお前みたいな日本人だけだといわれているような気がした。もちろんそんな風には思ってないと思うけど、その概念が180度、反対側にあるんだなと。なんて小さい人間なんだとまた気付かされた。その日は『考えておくよ』とだけ言った。
突き抜けた瞬間。
俺はそのことを思い出すたびその言葉を思い出す。その日も屋上にいて、1人で遠くのヒマラヤを眺めていて、いろいろもの思いに耽っていると、それは突然起こった。ぼぉ〜っとしていただけなんだけど、現実と非現実が逆転した感覚に襲われた。日本で毎日せかせかと同じ時間に起き、同じ道を歩き、同じ仕事をし、同じ道で帰り、同じような時間に寝る。そんな繰り返しの現実と、旅に出て毎日、寝てる以外はキマッていて、でもそれが何でもできるぐらい普通になって、胸がドキドキするような、ハラハラするような、知らない国に行き、知らない人に会い、見たこともない景色を観て、知らない音楽を聴き、知らないものを食べ、知りあったばかりの人と別れ、また知らない国に行く、非現実・・・。いったいどっちがホント?なんだろう?実際、ホントも嘘もいらなくて、現実も非現実なんていう小さい括りもいらなくて、あるのはただそこにその瞬間存在しているという事実だけ。
結局、何が言いたいかと言うと、日本にいようがインドにいようが、どこにいても、俺っていう人間は何も変わらないってこと。『ああ、そういうことか・・・。』と初めて納得して、強く感動した。これからは、俺むき出しで生きていこうと決心した瞬間だった。
そんなことも経験しつつ、ヴァシシトでの短い滞在が終わろうとしていた。帰り際、宿のオーナーに『あの話は面白いけど、日本に帰って、いろいろトライしてみて、ダメだったらまたここに来るよ。嬉しかったよ。ありがとう。』と言った。オーナーは首を横に降り、オッケーと言った。俺たちは最後にみんなで写真を撮って、別れを惜しみつつ宿を出た。そして、俺たちの最後の旅の目的地、キリガンガーへと向かった。
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